1. 廃業か継続か――「そのとき」が、思ったより早く来る理由
「いつかは誰かに引き継ぎたい」
「まだ元気だし、今すぐではない」
中小企業の経営者にとって、事業承継はいつも“ちょっと先の話”です。しかし、実際にはその「いつか」は突然やってくることが少なくありません。健康上の理由や市場の急変、後継者候補の離脱など、予期せぬ変化によって、「準備不足のままバトンを渡さなければならない」という状況に追い込まれることも。
特に岡山県の中小企業では、地元密着型で家族経営の形態も多く、「後継者がいない」「息子に継ぐ意思がない」という声が目立ちます。実際、中小企業庁の調査でも、中小企業の3社に1社が後継者不在という状況にあるとされ、深刻な「後継者不足」が地方経済の将来に影を落としています。

2. 事業承継の準備は、想像以上に「時間がかかる」
「継ぐ人が見つかれば、あとは簡単だろう」そう考えている経営者の方は少なくありません。
しかし、事業承継とは単なる「名前の書き換え」ではなく、以下のように複雑で長期的なプロセスを含みます。
【 事業承継にかかる主な準備内容 】
- 経営ビジョンやノウハウの整理
- 財務状況の見える化と整備
- 後継者の育成と経営者としての意識づけ
- スタッフや取引先との信頼関係構築
- 自社株や資産の相続・贈与に関わる法務・税務対策
- 資金繰りや保証人の変更処理
これらを“スムーズに”“確実に”実施するには、3~5年程度の準備期間が必要とされています。逆に言えば、60歳を迎えた段階でようやく動き始めたのでは、遅すぎる可能性が高いのです。

3. ありがちな失敗例に学ぶ、“継がせ方”の落とし穴
岡山県よろず支援拠点に寄せられる相談には、さまざまな事業承継のケースが含まれています。なかでも共通して見られるのが、「感情の問題と制度の不備が混在している」という点です。
以下は、よくある失敗パターンです。
【 失敗例1】子どもに継がせるつもりだったが、本人は別の道へ
→ 親は当然継ぐものと思っていたが、子どもは首都圏で別キャリアを築いており、話し合いも不十分のまま断念。結果、後継者探しが白紙に。
【 失敗例2】税理士に任せきりで全体像を把握していなかった
→ 自社株の移転や資産の処理などは税理士任せ。経営実務や社員との関係構築が置き去りになり、後継者が経営の現場で孤立。
【 失敗例3】従業員に継がせたが、社内の対立が激化
→ 信頼していた番頭格の従業員に承継。しかし、他のベテラン社員との対立が表面化し、1年で事実上の廃業状態に。いずれも、事前の対話不足と**“見えないもの”の継承不足**が原因となっています。
4. 「親族外承継」という選択肢
かつては事業承継といえば「息子が継ぐ」のが当然とされてきました。しかし、最近では親族外承継(従業員や第三者への引き継ぎ)というケースも増加しています。たとえば、以下のような親族外承継の成功事例があります。
【 成功事例 】社内の若手にじっくり引き継ぎ、6年後に完全承継
ある製造業では、20代の若手社員に3年かけて現場業務を教え、さらに3年かけて取引先や地域とのつながりを持たせる段階的承継を実施。2023年に完全な経営移譲が完了し、現在は新規事業開発にも取り組んでいます。
このように、「血縁がない=継げない」ではなく、信頼関係と準備が整っていれば、親族外でも円滑な事業承継は可能なのです。

5. よろず支援拠点ができること:事業承継は“経営の再設計”
岡山県よろず支援拠点では、中小企業の事業承継に関するあらゆる相談を無料で受け付けています。
私たちが重視しているのは、「承継=手続き」ではなく、「承継=未来の設計」ととらえることです。
✔ 支援メニューの一例
- 経営者の思いの整理支援(経営理念・価値観の棚卸し)
- 後継者との対話支援(親族間・社員間のコミュニケーション設計)
- 専門家(税理士・社労士・弁護士など)とのチーム体制づくり
- 経営計画の再構築(承継後のビジョンや戦略の策定)
- 地元企業同士のマッチング(第三者承継の場合)
私たちは、単に情報提供をするだけでなく、“経営の引き継ぎ”を成功させる伴走役として継続的に支援しています。
6. 事業承継は、経営者にとって最大の“意思決定”

経営とは、「決断の連続」です。その中でも事業承継は、経営者人生の最後にして最大の決断と言っても過言ではありません。
この重要な局面において、孤独に悩み、判断を先送りしてしまう経営者が多いのが現実です。
しかし、承継は一人で抱えるものではありません。外部の視点や専門家の知恵をうまく取り入れることで、より円滑で希望ある未来を描くことができます。
7. さいごに:会社は「家業」から「企業」へ
いま、事業承継の形は大きく変わっています。血縁、年功、しきたりといった従来のルールから、経営の意思・覚悟・準備が重視される時代へと移行しています。
事業承継は、“終わり”ではなく、“新しいスタート”の合図です。だからこそ、今からでも遅くはありません。まずは一歩、小さな準備を始めてみませんか。

岡山県よろず支援拠点は、中小企業の未来づくりのパートナーとして、あなたの決断を全力で支援します。
事業承継、いまがそのタイミングかもしれません。
